棋力の変化への追随

シンプルなモデルでは、集計期間の間、棋力に変化は無かったと仮定している。プロなので、さほど急激な変化はないと考えら れるが、かなりアバウトな仮定で ある。39ヶ月の平均と考えるにしても一年半以上前の棋力の推定値…ということになる。

KGSモデル

新しい対局結果ほど重視する。対局結果の信頼度は一年で半減するとした(KGSでは15-45日)。単純なモデルよりは、最近の活躍が評価されている。し かし、これもやはり過去−概算で九ヶ月前−の棋力の推定値ということになる。
日本棋士 全棋士


直線モデル

棋力が日数の経過に対し一定の割合で変化したと仮定し、全体局の結果を同等に評価した。
Rate = R + α ( 通し日数/通算日数 - 1/2 )

棋力が変化しやすいとして、下図の結果を得た。

勝率 2005
01/01
2008
04/01

65 32 0.67 5.61 10.95 Iyama Yuuta
41 17 0.71 3.76 10.15 Xie Yimin
86 52 0.62 7.33 9.71 Takao Shinji
55 49 0.53 6.49 9.53 Kono Rin
76 54 0.58 7.04 9.42 Cho Chikun
140 67 0.68 8.17 9.22 Cho U
34 36 0.49 6.86 8.55 Ko Iso
52 50 0.51 7.79 8.10 Yamada Kimio
32 30 0.52 7.00 8.10 Kobayashi Koichi
104 72 0.59 8.79 7.89 Yamashita Keigo
45 46 0.49 7.57 7.88 Cho Sonjin
53 61 0.46 7.93 7.51 O Meien
52 50 0.51 8.15 7.43 So Yokoku
95 79 0.55 8.89 7.42 Yoda Norimoto
54 64 0.46 8.15 7.22 O Rissei
67 54 0.55 10.59 5.91 Hane Naoki
73 65 0.53 10.49 5.43 Kobayashi Satoru
50 32 0.61 11.40 5.39 Yuki Satoshi

成長と衰退、または好不調がよくわかるが、これほどの変化は無さそうである。若手は棋力が上がりやすく、ロートルは下がりやすいといったことは考えられる が、アバウトにαを0に近くする圧をかけた。適度かどうかはわからない。
日本棋士 全棋士


折線モデル

四半期ごとに区切り、その間は棋力が日数の経過に対し一定の割合で変化したと仮定した。結節点の前後の、(期待勝数−勝数)を変動圧とし、一方で前後の結 節点と平均化する。
儚(i) = k*R(i-1)  + k*R(i+1) - 2k*R(i)  +  (期待勝数−勝数)*T
 T = log(全区間の対局数) / (全区間の対局数)

このTの取り方はあまり良くなくて要検討である。しかし、あまり不安定なものにすると収束しない。(なお、これまでのモデルでは変動圧が0に収束するの で、Tは何でも良かった。)

収束するまでの計算量は凡そ(区間数)^2。あまり意味のない未知数もあるので、未知数の増加分から想定されるよりは早く収束する。シンプルなモデルは数 秒、このモデルでは数分を要した。
日本棋士 全棋士

この結果に、信頼度の補正1/sqrt(負け数)を加えた。単一の数字でのランキングのようなものとしては、この方がふさわしいかも知れない。

日本棋士 中国棋士 韓国棋士 全 棋士 (ソートが不完全なのは仕様)


実験

KGSモデルでは、過去のレートを現在と同じと仮定し、ただし分散が大きいとして、現在のレートでは起こりにくいことも起こる…としている。であるから、 棋力の変化への追随性を良くしたとき、過去はなんでも起こりうるとなって、古いサンプルはあまり意味を持たないことになる。KGSの例では、半減期を15 -45日としているが、それでも対局数が多いとレートは変動しにくいと言われている。どの程度変動するかはTables on rank responseにある。
 

折線モデルでは、過去のレート−高かったか、低かったか−から現在と同等の分散を持つとして計算し、その結果を最新のレートにフィードバックしているの で、そのぶん精度が増すことになる。

KGSモデルと同等の追随性を持たせたとき、どの程度に古いサンプルが生かされているか試してみた。

・A
2008/03/01    Hane Naoki   Takao Shinji
2008/03/08    Hane Naoki   Takao Shinji
2008/03/15   Takao Shinji    Hane Naoki
2008/03/22    Hane Naoki   Takao Shinji
2008/03/29    Hane Naoki   Takao Shinji

・B
2008/03/01    Hane Naoki   Takao Shinji
2008/03/03    Hane Naoki   Takao Shinji
2008/03/05   Takao Shinji    Hane Naoki
2008/03/07    Hane Naoki   Takao Shinji
2008/03/09    Hane Naoki   Takao Shinji

2008/03/25   Takao Shinji    Hane Naoki
2008/03/27    Hane Naoki   Takao Shinji
2008/03/29    Hane Naoki   Takao Shinji

A,B二つの架空のデータを加えた場合のレートの変動を調べた。折線モデルのレートの変動幅は「なんとなく妥当なように見える」という基準で決めたもので あるが、KGSモデルでこれと同等の変動をするのは半減期を半年とした場合であった。なおいずれの場合も、他の棋士のレートに大きな変動は無かった。
KGSモデル 折線モデル
実際 実際           
8.71 8.55 8.42 8.63 8.44 8.27 Takao Shinji
8.27 8.55 8.78 8.18 8.46 8.70 Hane Naoki
8.83 8.8 8.78 8.75 8.73 8.72 Cho U
8.68 8.68 8.68 8.54 8.54 8.54 Iyama Yuuta
8.32 8.32 8.33 8.24 8.23 8.23 Yuki Satoshi
8.32 8.33 8.34 8.20 8.21 8.21 Yamashita Keigo
8.31 8.3 8.30 8.27 8.25 8.24 Cho Chikun
8.30 8.29 8.29 8.22 8.22 8.21 Kono Rin

(1)折線モデル、KGSモデルで(2)半減期1年、(3)半年を比較したところ、一見して、全体のレートの分散は、(1)と(2)で同程度、(3)は明 らかに大きい。このことは(3)では古いサンプルの意味が少ないためと考えられる。(一覧

KGSモデルより精度が良いことはこうして確かめられた。ただし、計算量に見合うかどうかは別の問題である。
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